東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)63号 判決 1970年1月22日
原告 株式会社三陽商会
被告 特許庁長官
主文
特許庁が、昭和四三年三月四日、同庁昭和四二年審判第一五二三号事件についてした審決は、取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二請求原因
原告訴訟代理人は、請求原因として、次のとおりのべた。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、旧商標法施行規則(大正一〇年農商務省令第三六号)第一五条第三六類レインコート其他本類に属する商品を指定商品とする別紙表示の登録商標の商標権者であるが、昭和三九年六月一七日、商標法施行規則(昭和三五年通商産業省令第一三号)第三条別表第二二類はき物(運動用特殊ぐつを除く。)、かさ、つえ、これらの部品および附属品について、叙上登録商標と同一の標章についての防護標章登録の出願をした(昭和三九年商標登録第二七九三九号事件)。しかし、昭和四二年一月二〇日拒絶査定を受けたので、昭和四二年三月二日、これに対し審判請求をしたところ、昭和四二年審判第一五二三号事件として審理のうえ、昭和四三年三月四日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり、その審決の謄本は同年四月一三日原告に送達された。
二 審決の理由の要点
本願の防護標章が登録第四〇七〇三一号の商標の態様と同一性を有する標章であることおよび該登録商標が原告に属するものであることは、明らかである。そして、原告が古くから主としてレインコートを製造販売し、これを「サンヨー」のレインコートとして広範囲に宣伝販売しており、そのためその商品は「サンヨー」のレインコートとして取引者需要者間に相当広く認識されていることは、認めるに難くない。
しかし、「三陽」の文字を含む商号は、他の産業部門に数多く存在しているから、該文字ないしはこれを欧文字であらわした「Sanyōの意味において、登録第四〇七〇三一号を構成する文字は、いずれも独創的な商標とは認め難い。また、本願商標の指定商品は、レインコートと同様、人の身体に附しまたは人が携帯する商品であるという点において、レインコートと関連を有する商品であることは否定し得ないが、製造業者販売業者を同一にする商品であるとは必ずしもいい得ない。
さらに、原告が商品レインコートについて現実に使用している商標は、本願商標とは若干態様の異なる「Sanyō
以上のような諸点をも勘案すると、本願商標がその指定商品に使用されても、これらの商品と原告の製造販売にかかる商品レインコートとが混同を生ずるおそれはないものであると判断するのが相当で、本願防護標章は商標法第六四条の要件を具備しないから、その登録は拒否すべきものと認める。
三 審決を違法とする事由
右審決は、以下にのべる事由によつて違法であり、取り消されるべきである。
1 審決は、原告の有する登録商標が独創的な商標と認め難いことを本件防護標章出願を拒絶する理由の一としている。しかし、商標法第六四条は、登録商標が独創性のあるものであることを防護標章の登録要件の一としていない。したがつて、原告の登録商標が独創的でないことを拒絶理由の一とした審決は違法である。
2 審決は、本願商標の指定商品が、レインコートと同様、人の身体に附しまたは人が携帯する商品であるという点で、レインコートと関連を有する商品であることは否定しないが、製造業者販売業者を同一にする商品であるとは必ずしもいい得ない旨判示している。しかし、本願商標の指定商品である商標法施行規則第三条別表第二二類はき物(運動用特殊ぐつを除く。)、かさ、つえ、これらの部品および附属品がレインコートと用途を同じくする以上、同一人が両商品を同時に所持することは必然的であり、その際両商品に同一の商標が附せられていたと仮定すれば、需要者および消費者が同一営業者の営業にかかる商品であると感受することは、社会通念上当然である。したがつて、本願の指定商品について他人が原告の登録商標の使用をすることにより、その商品と原告の業務に係る指定商品とが混同を生ずるおそれがあるものというべく、これと反対の判断をした審決は違法である。
3 審決は、原告がその登録商標の指定商品であるレインコートについて現実に使用している商標は、本願の商標を構成する欧文字とは若干態様の異なる「Sanyō本願の出願当時、本願の商標は原告の業務に係る指定商品レインコートを表示するものとしてわが国需要者間に周知著名であつた。もつとも、原告が、その製造販売にかかるレインコートの宣伝広告に際し、「サンヨーレインコート」と一連に仮名書きした標章、同文字に音符状の図形を結合した標章、「Sanyōをあやまり違法なものである。
第三被告の答弁
被告指定代理人は、答弁として、次のとおりのべた。
一 請求原因の一および二に対する答弁
右事実は、すべて認める。
二 請求原因の三に対する答弁
右事実のうち、審決が原告主張のとおりの判断をしたことは認めるが、その他の事実は否認する。
審決において原告の登録商標が独創的なものでないことを指摘したのは、商品の出所につき原告の営業品であるとの混同を生ずるおそれがあるとはいえないという判断の一資料として認定したものであつて、そのことは審決の判文上おのずから明らかである。したがつて、審決の叙上のような指摘をとらえて審決を違法であるとする原告の主張は理由がない。
また、原告は、その製造販売するレインコートに、「サンヨーレインコート」と一連に片仮名書きした商標、「Sanyōを使用していたもので、本願商標を使用していたわけではない。すなわち、本願商標は原告の商品レインコートを表示する商標として広く取引者および需要者間に認識されていたものとはいえないから、これにつき防護標章登録を求めることはできないものであり、審決に違法はない。
第四証拠関係<省略>
理由
原告の請求原因の一および二の事実は、当事者間に争がない。
そこで、審決が違法であるかどうかについて審究する。
まず、登録商標の周知著名性の点について検討するのに、原告がその有する別紙表示の登録商標の指定商品である原告の製造販売するレインコートの宣伝広告に際し、「サンヨーレインコート」と一連に仮名書きした標章、同文字に音符状の図形を結合した標章、「Sanyō下綱平の各証言を参酌して考えると、本件防護標章登録出願の当時、別紙表示の登録商標がその指定商品である原告の製造販売に係る指定商品レインコートを表示するものとして需要者間に広く認識されていたことを認定することができる。そのレインコートの宣伝方法に関する前記判示の事実その他本件にあらわれた証拠によつても叙上甲号各証の記載が真実に合致せず証拠力を欠くものと断定することはできないし、その他前叙認定を動かすに足りる反証はない。
そこで、つぎに、混同の発生のおそれの有無について検討するのに、原告の登録商標の指定商品であるレインコートと、本願防護標章の指定商品である商標法施行規則第三条別表第二二類(はき物(運動用特殊ぐつを除く。)、かさ、つえ、これらの部品および附属品)の商品とが、その製造業者および販売業者を常に同一にするものであるといいえないことは、経験上明らかである。しかしながら、レインコートと前記第二二類に属する雨ぐつ、かさ等とは、同時に携行着用され、同様の用途に供用される場合の多いことは、いうまでもない。したがつて、右第二二類に属する商品について他人が原告の本件登録商標の使用をすることにより需要者、とくに消費者の間にその商品と原告の製造販売に係るレインコートとが出所につき混同を生ずるおそれがあるものと認めるのが相当である。
そうだとすると、別紙商標が独創的なものであるかどうかを論ずるまでもなく、原審決は違法として取消をまぬがれないものというほかはない。
よつて、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条および民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 服部高顕 石沢健 奈良次郎)
別紙